1月の特に寒い日、一人の男を連れて、神戸駅から新快速に乗り高槻まで行き、
そこから一つ大阪側に戻る。
摂津富田。 駅前のロータリーで新阿武山病院行きのバス。 約20分で病院着。
この病院はアルコール専門病院だ。同行の男はアル中。アルコール依存症だ。
知り合いの院長、ソーシャルワーカーに無理を言っての入院…。
朝9時に家を出て、帰りの新快速に乗って時計を見たら午後3時を回っていた。
親戚でもない、ただの友人…。
「…なんで、オレがこんなことせなアカンねん…。」
電車の窓の外の冬の空を見るともなしに見ながらそう思う。
「…おじさん…、お世話になりました…。」
出そうになる涙を必死になって抑えて、横浜で二年間お世話になった、下宿させて
いただいた友達のお父さんに、高校を卒業し、大阪の実家に戻る日に挨拶をした。
「…君がいなくなると、寂しくなるよ…。」
おじさんの言葉に又涙が出そうになる。
「…この、御恩は忘れません。必ずお返しします…。」
「ホウッ、御恩を返してくれるのか、嬉しいね。 いつだい? どんなふうに?」
「…い、いつか、きっと…。」
「いま、やっと高校を出たばかりだ。君が恩を返してくれるのには、まだまだだ。 お金で返してくれるの? それとも、違うことかな?」
「…。」
「そのころ、おじさんが、死んでたらどうするの?返す相手はいないじゃないか。」
「…。」
「でも、返してもらうよ。 君が、御恩は返すって言ったんだからね。」
「…。」
「いいかい、君はおじさんには、返せないんだよ。また、おじさんもおばさんも、返してもらおうなんて思ってもいないんだよ。 …いつか、キミが大人になって、誰か困ったり、悩んだりしている人がいたら、その人に君の力をかしてあげなさい。それが、おじさんやおばさんに恩を返したことになるんだよ。」
「…。」
私は頭を下げたまま立っていた。 こらえていた涙がドッと出た…。
「マ、ええか…。」
酒を切って、元気になって社会に戻ってくる友を期待しよう…。
…もうすぐ神戸だ。駅に着いたら熱いコーヒーを飲もう。